合作小説を楽しく作っていきましょう。
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―――そこには人間しかいないのに、この世の全ての化け物が勢ぞろいしているようだ。
戦争を体験したものが語る言葉だ。嘘偽りがあるわけでなく、決して比喩や揶揄でもないのだと思う。
そこには生きている者などおらず、死者と化け物が殺しあっていたのだ。本性と本能がぶつかり合い、血肉を喰らって臓物を引き出される醜い闘争。
正直、そんなところに救いなどはないのだろう。正義や悪なんてそんな下らない物もなし、それを夢見た子供達の命も朝露と共に消える。
そんな純粋な殺し合いの世界。
私に何の罪がなかったとしても、それはどうしようもなかった事なのだと思う。それこそ、そこから助けようとする救世主なんかが現われていたら、そのどてっ腹に鉛玉を撃ち込んでいたに違いない。
突然起こった戦争は、私から全てを奪っていった。全てといっても幼い少女だ。家と家族が全てといえた。それを失くした少女には何もなかったのだと思う。
いろいろと無意識のうちにしていて、歩き出していた。ここは夢なのだと、夢の出口を探すように。
だが、もちろん現実。痛みは酷く、町中はなにかの焼ける匂いで包まれていて、嫌に涙が出た。それでも、歩き続ける。それを信じてしまえば、自分が壊れてしまいそうで、必死になって歩き続けた。
……だけど、終わりは来る。
少女としての体力は限られていたし、そもそも目的がないのに歩き回る事自体が愚かだった。
どこへ行っても、悲鳴、傷、血、うめき声、助けを呼ぶ声、足、首、何かが潰れる音、腕、肉の焼ける匂い、眼球、よく分からないモノ。
体験するモノは惨劇で、記憶は血で染まっていった。
そして、倒れる。
精神的にも、体力的にも、限界だったのだ。
自分の命が終わりかけているのを感じて、少女はほくそえんだ。
この世界に、自分の命に。
―――ああ、ようやく終わる。
出口は、すぐ目の前だった。
だが、神は少女を見捨てなかった。
一人の中年が少女を見つけた。
嫌らしい笑み、惨劇の中その中年は楽しそうな足取りで少女を助けた。傷を癒し、栄養を与え。自らの家に連れて帰った。
それから、私はそこで生活する事になった。中世的な建造物に広大な庭。外はあんなにも地獄なのに、まるで楽園のような場所。
だが、そこでは、ただ弄ばれるだけだった。
日々、重労働。よく失敗を見つけられては殴られた。日に日に痣は増えていき、骨が折れたときもあった。だが、悲鳴を上げることはできない。悲鳴を上げれば、さらに酷い仕打ちが来るのだから。
中年は、例え完璧に仕事をこなしたとしても私を殴った。その中年にとって、少女を殴ることが趣味だったようだ。
その苦痛を耐えるのは当たり前。そこの当主である狂った中年のご機嫌をとるしか、明日の朝日を臨むことさえ出来ないのだ。私は必死に耐えていたのだと思う。
別に、戦争が憎いわけでもない。私の境遇も生きているだけマシというものだろう。
だけど、涙は止まらなかった。なぜだろう、無性に死にたくなった時もあった。地下の部屋で汚れた自分の身体を見て、コレで生きているのか判らない時もあった。
――――だから、その事件もしょうがないのだと思う。
―――――― a zero day
目が覚める。
耳に聞こえるのは海の音。ここが船の中だと分かる。
「…………ん」
変な格好で寝ていたからか、身体が凝っていた。身体をほぐそうと腕を広げ――
「―――ん?」
広げられなかった。手足をぐるぐる巻きにされて、なんか船倉に転がされている。そういや、私は拉致されているんだっけか。
磯の匂いがする。ということは、そろそろ目的地に着くのか、それとも補給か。
まあ、どっちにしろ早くこの縄をほどいてほしい、というのが本音だ。
「くそ、縄目があればほどけるんだがな」
今、私を縛っているのはなんか得体の知れないもの。鎖より強靭だが、意外と弾力性があって縛り心地は悪くない。いや、変な意味でなく。
足と手。それに肩の関節。首、膝、胴体。一体幾つのコレで縛られているのか判らないが、他の人から見ればきっと私なんか見えなくて縄しか見えないのではないだろうか。
ゴソゴソと暴れてみるが、まったくもってほどける様子はない。そもそもコレ、縄目がないあたり絶対普通の縄じゃないし。魔術師かなんかの曰く品だろうか。
「……寝るか」
諦めは肝心だ。今の私にとって唯一の娯楽といえば寝る事だし、ほどけない物に何時間もかけるのは莫迦らしい。睡眠に専念するのが一番効率的だと思う。
「寝よ寝よ」
というワケで、目を瞑る。波の音を聞きながら、私は意識を保ちながら寝る。
……………。
数時間経った頃か、重い扉の音と共に眩い光が、
「……起きてくださいまし」
私に目を覚まさせた。
「……なんだ、用があるなら明日にしてくれ」
ボソボソ呟いた後、手を振って寝なおす。
船倉に人が来るのは珍しいが、今はそんなこと関係なく眠っていたかった。
「いえ、そういう訳にはいきません」
凛とした声。どこからどう聞いても裕福な家の育ち。ああ、そういうヤツとは気が合ったためしがないんだが。
その声に誘われて目を開ける。その目の前のヤツと会話する為に。
「目が覚めたでしょうか?」
「ああ、バッチリ。で、誰、アンタ」
……………。
目の前にはメイドっぽい……てかメイドの格好をした女の子がいた。私とは対照的で、なんか場に合わない雰囲気。
「私ですか? 私はムーと申します。これから貴方のお傍にお仕えする、……えーっと、あ、そう! お手伝いです!!」
やっぱり、気が合いそうにない。なんか、無駄にニコニコしているし、明るすぎる。それに、馬鹿っぽい。
「……………」
それにしてもお手伝いなんて、長の差し金かそれとも罠だろうか。戦場はおろかこの船にだって、違和感ありすぎだ。
「貴方のお名前は?」
そんな違和感関係無しに話を進めるムーという少女。メイド服を着ている辺り、どこか貴族の手伝いだったのだろうか。いろいろ思考を廻らすが、途中で面倒になった。
「ヨルク」
答えないのも何なので、ぶっきらぼうに答える。そもそも、初対面で名前を聞かれるのは幾分か久しぶりで、どのように答えていいのか分からなかった。
「……ぁ、いえ、フルネームでお願いします」
なるほど、フルネームで答えるべきだったのか。
「ヨルク・フォン・アーレンス」
「――はい、では次。年齢をお聞かせ下さい」
「十二」
「性別は?」
「見れば判るだろ」
「あ、そうですね……はい、完成しました。御協力感謝します」
ビシっと頭を下げるムー。その見事な挨拶に一瞬我を忘れたが、どうしても聞きたいことができてしまった。
「……いや、待て。お前一体何作ってんだ。今の名前と年齢、性別を聞いただけじゃないか」
そんな私の質問に、むう? なんて首をかしげるムー。ギャグか。
「何って、ハイ――コレです!」
そんなムーが目の前に広げて見せたのは、つたない字で「お友達ノート」と書かれたボロボロの紙束だった。
その紙は所々破けたりしていて、いかにも年代を感じる。
「いやぁ、私ってすぐ物事を忘れちゃうんで、いつもこうやってメモしているんです」
だから、使いこんであるのか。忘れるからメモする、非効率的だ。私なら忘れたままだろうに。
「えへん」
メモしている事を威張っているのだろうか、胸を張るムー。いや、威張れないぞ、そこは。
「………ん?」
その見せてくれた紙切れに、なんかミミズっぽい線の集まりがあるのだが、これは、
「もしかして、このへにゃらって描かれている数学的記号みたいのは私か?」
「あ、よく判りましたね。寝顔を参考にしていただきました」
えへへーなんて言いながら、絵の説明をしてくる。ああ、一つ解った。コイツ致命的に絵が下手くそだ。
「あれ、けど私の絵ってよく理解できないて言われます……もしかしてヨルクちゃんってエスパー?」
あははははー、なんてさらに屈託なく笑う。なんだ、自覚していたのか。
「うん、確かにヨルクちゃんってエスパーっぽい外見をしてますもんね」
それは、縄だらけのことを言っているのだろうか。言っておくが、縄抜けとかは手品師だぞ。
「ハーッ、ってやるんですか。ハーッって。もー答えてくださいよー、ヨルクちゃん」
いや、さっきから気にはなっていたのだが。
「おい」
「あ、はい。なんでしょうか」
「私の事を“ちゃん”付けで呼ぶな。それと、私はエスパーなどではないから、そこのスプーンは手に取らないように」
「……あはははは、嫌だなぁ。冗談ですよ、ヨルクちゃん。エスパーなんてそうはいませんって」
そう言いながらも、お前背中になんか隠したろ。それと、ちゃん付けたままだ。
なんて、小十分も話していると、コイツの性格も解かり始めた。
「とにかく笑う、挫けない、礼儀が無い」
特に最後、言葉は敬語なのに接し方は礼儀がないというのは一体どんな教育を受けていたんだコイツ。
見ればニコニコと笑っている。まったく、調子を狂わせる。
見ればニコニコと笑っている。まったく、調子を狂わせる。
「さて、コレ。もういりませんね」
話が一段落した頃、唐突に縄を指差しながら呟くムー。なんだ、まるでコイツがこの縄で私を縛ったような物言い。もしかして、
「お前がこれを?」
怪しげに微笑む。
「ええ、けどこれって縛る事以外には使えないんです」
そんなことは聞いていない。つまり、お前は、
「魔術師か」
人間とは違うもの。いやな響きだ。
魔術師。神秘を操る者たちの総称。私の国では、等価交換を原則とし代償から代償を得る。そんな変哲な考え方をされているものだ。
社会からは恐れられており、それについて昔一騒動あったとかなんとか。それ以来、基本世間一般には姿を現さないものだ。
だが、一つ例外的な状況がある。
戦場だ。戦争時、社会は自らの為により大きな力を欲する。それが自ら恐れていたものだとしてもだ。
その時だけ、魔術師はその戦果に応じての報酬を得るために闇から出でてくる。まあ、出てくるのは割と新参者ばかりで、古株たちは閉じこもって己を鍛えているそうだが。
そして、今私が向かっているのもそんな場所だ。
「? どうしたんですか、そんな恐い顔をして。あの、確かに私は魔術師ですけど、その、あまり得意な方でなくて」
ポリポリと顔を掻きながら、ムーは助けを求めるように視線を泳がす。そんなに私は恐い顔をしていたのだろうか。
「ああ、解っているよ。お前から感じる魔力は微細なものだ。ただ、魔術師というのは少し嫌いでね」
正直に話す。そんな私の顔を覗いながらムーは縄を外してくれた。
「あ、あの、ごめんなさい。嫌いだって知らなくて、その、命令だとはいえ縛ってしまって」
オロオロ、忙しいヤツだ。コイツほど擬音語、擬態語が似合うヤツは他にいるまい。
「あ、そうだ! 私、もうこれから魔術は使いません。だ、だから、お友達にしてください!」
どこまでも気が会いそうにないが、解った事は多くある。コイツは生き方がまっすぐで好感が持てる。錆びれた私の心にもまだそのような感情が残っている事自体驚きだが、コイツは割りと好きな部類に入る……かもしれない。
「魔術はそうしてくれると助かるが、お友達はどうだかな」
ふと微笑がこぼれた。笑った瞬間に驚いた。こんなに純粋に笑ったのも、果たして何時方ぶりだろうか。
「えーー」
不満顔なムー。
だが、その顔は笑っている。こいつの笑顔はヤバイな、人まで幸せな気持ちにさせてしまう。
いや、退屈な仕事だと思っていたが、コイツと一緒なら楽しくいけそうだ。
海の香りがする。生まれて初めての海は、どうしようもなく幸福だ。
笑いと溜息と、また笑いが私の気持ちを和やかなものにする。
船の揺れすら不快なものでなく、まるでゆりかごのようで、
その日、私は久しぶりに、無防備にも睡眠をとった。
幸せ顔なアイツを見ながら。
―――そして、その三日後。
私たちは、戦争が起こっている悲しい日本に降り立った。
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