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車に乗せられて半刻ほどたったところで、わっちは車から降ろされた。
軍の本部?そういえば、特殊任務がどうのとか言ってなかったかの?
「空殿、では、こちらへ」
「はいはい。あんまり退屈だと、わっち、帰るかもしりゃんせん」
麻倉と言う男は、気にした風でもなんでもないような顔をいている。むー。なんかむかつく。
戦争なんて、『私』にはくだらないものだと思う。跡継ぎだ、権力だ、と。――制服組のやつらは背広組の駒でしかなく、背広組は国民のためと言いながら、自分の利益のためだけに戦争や、法制を作ってきた。わっちは、そんな黒い思惑の渦巻くセカイの中心に幼いころはいた。まぁ、物心ついた時にはあの寺にいたわけ。どんな思惑、意図、駆引きがあったのかは、幼い、幼かった『私』にはわからない。そんな『わっち』がまたそんな、「もの」の中へ入っていくと思うと、この血の定めからは逃れられないのかと、わらってしまう。
「はぁ。くだらん」
「そうでもありません。確かに、所詮王を決めるだけの継承戦争ですが、私はこの国が強くなるきっかけになると思っています。そのための犠牲にしては少々時間と民、軍人に負担がおおきいかもしれませんが」
「…………。」
この男、わっちの考えていることがわかるのか…?確かにそういった『力』の存在も可能性の範囲内としてはある。わっちが知らないだけのことかもしれん。―だが、実際この能力は先天性のものであり、一部の者にしか備わっていない。このことをまだ草薙は知らない―
「そんなところです。失礼しました。あまり使いたくない能力ですが、空殿があまりにも魔力が強いので、自動で発動してしまったようです」
「それなら許してやるぞ。わっちもその能力ほしいの。――ただ、知りたくないこともわかりそうだの」
「はい。空殿、ここで少々お待ちください。失礼します」
そういって麻倉はわっちを扉の前に残し、扉の向こうへ消えていった。わっちは手持ち無沙汰になってしまった。つかれたの。とりあえず、椅子がおいてあったので座った。ようやく、この建物がどんなものなのか見えてきた。西洋を感じさせる豪華な造りだが、なんというか「嫌味がない」そう、気品がある。――建物だけは。ステンドグラス、シャンデリア、おそらく有名な絵画。どこかの城のよう。しかし、内部に流れている気配や雰囲気はどこか鋭く、火薬の匂いがしてもおかしくないような気が流れている。
「空気がいたいのう…。こんなところで疲れないのかの…。わっちにはむかん」
そういって、首を背もたれに預ける。
「空様。――お久しぶりです」
そういって、逆さまに立っている―違った、首を擡げているからか。わっちの名を呼び久しいというこの女。はて、誰だったかの?思いだせん
「――空様。やっぱりお忘れなのですね。そんなことだと思っていました」
長い青みがかった髪。背はわっちより少し高いくらい。青い軍服がよく似合う。一番の印象はこのどこか挑戦的な目。この丁寧な言葉だが、口調も挑戦的。あ…。
「馬佐良優実…だったかの?」
「だったかの?ではありませんわ。お友達でしたのに」
そうはいっても本当に遊んでいたのは10歳まで、『私』がまだあの屋敷に住んでいて何も知らない愚かな小娘に過ぎなったときだけ。そうは、いってもまだ小娘には変わりない。この馬佐良優実(バサラユウミ)は御三家で5大財閥の内のひとつの出である。5大財閥はわっちの姓の『草薙』、わっちの後ろで軽く笑っている『馬佐良』、金融の『三井』、炭鉱の『住友』、海運の『三菱』。この5つの財閥で殆どの市場を独占している。また、御三家とは、政治に関与し、国の発展に力を注いできている家である。『馬佐良』『撼凪』そして『草薙』つまり、経済にも政治にも力を持った名家の者、ということだ。わっちもそういう血の定めを持つものなのだが。
「優実よ、おぬしがなぜここにおる?その青い軍服はなんでありんす?」
「空様。ここは、軍の施設ですよ。それに私はお父様の指示に従っているだけですわ」
優実の父、馬佐良深紅朗。この国の軍部の長。三男側ではあるが。軍部にいながら、政治的な発言の的確さや、その着眼点が高く、裏でこの国を動かせるものの一人だ。そんな人間早々いるわけもないが。
「軍か…。なにも聞かされておらん」
わっちはそう言った時、奥の扉が開いた。
「お待たせいたしました。空殿こちらへ」
「うむ。ではの、優実」
「はい。空様」
扉の向こうは大きな机が一つあり、その向こうにこの施設の長であるものが腕を組み座っている。この男の目は野望にもえつつも、どこかでそれを押さえる理性が時折見えるような気がした。
「私が、日本軍元帥の馬佐良深紅朗だ。――久しいな蓮翠の娘」
「お久しぶりでございます。――深紅朗様」
やはり、この男の前では、萎縮してしまう。空気が重い。
「まぁ、そう硬くなるな。今日、お前を呼んだのは蓮翠からの要望でな。お前の力を軍に使ってくれとの事だ。本日付をもって、草薙空、右のものに日本陸軍中佐に任命する。その力存分に使うといい。何かあったら、優実にいえばいい。以上だ」
「――父上が。私に?いったいなんの任なのでしょう?」
「詳しい話は麻倉特士に説明してもらいなさい」
「は、はい。では、失礼します」
そういって扉を開く。深紅朗とは、父の友人だ。そのため、すこし言葉が優しかった気がする。ほかの人間に対する口調はまるで違う。王とその配下の者のような感じである。一度きいたときは、本当に同じ人間なのかと疑ったくらいだ。
「空殿、いえ、空中佐。私の上官に当たるのですが、今日は任務について説明させていただきます。」
「うむ…。たのむでありんす」
そういいながら、通された部屋は、小さな会議室のようなところだった。
麻倉の話はこうだ。現在、わが軍は反乱軍との交戦中であり、親衛隊、つまりは近衛軍の人員が足らず、圧倒的な魔術師不足というわけだ。そこで、力のある魔術師であり、馬佐良元帥の旧友である草薙蓮翠の娘――わっちに白羽の矢がたったというわけだ。ただ、わっちの存在は表向きにはされず、影からの護衛任務になるという。草薙の名を冠するものが影からでは、おかしいと思うだろうが、『私』の力を考えるとそれは妥当な判断なのかもしれない。この任務にはもう一人つくらしい。この時点でわっちは優実がつくだろうと思っていた。――ものの見事に当たったのだが。
「中佐、お分かりいただけたでしょうか」
「無論じゃ。説明ご苦労だったの」
力をつかってもよいのか…。手加減は必要なのかの?――に聞いているのか?塵芥も残さず消してやればいい。――敵に会うまではわからんか。
「空様?」
「なんでもないでありんす」
「空様。任務中ですわ。一応」
「くぅ~。眠いのだよぉー。退屈でありんす。攻めてこないかの」
「中佐殿。それは、不謹慎であります」
む。たしかにそうだ。現在、わっちは列車のとある車両のなかにいる。一応潜伏になってはいるものの。髪の色が目立つということで帽子をかぶっている。わっちにも青い軍服が支給された。人には、『色』がある。気の色というべきなのだろうか。それは、個人によって様変わりする。わっちの色は『赤』。草薙家は、本来、「青、蒼、藍」と言った色が普通なのだ。これは、操れる魔法の特性にも関連している。――つまり『私』は異端児なのだ。
「空様。青い軍服もお似合いですわ」
「優実。嫌味か。それは。わっちの家柄を考えれば確かにそうでありんす」
深く考えてもしかたない。みなも経験があると思うが、列車に乗っているときのあのガタン、ゴトンという定期的な振動は、絶対、睡眠の魔術だと思う。感覚遮断性の魔術だ。わっちは、そういった、感覚器官を刺激される魔術に弱いわけではない。――列車からでる、この魔術によわいのだ。
「空様、魔術ではありませんよ。まぁ、都にいくだけですから、寝ていても大丈夫とはおもいます」
それを、早く言ってほし…。
列車に揺られること、一刻。
「空様、なにやら、列車の前方で事が起こったようです」
わっちは、目を光らせてこういった
「じゃぁ、いってくる。ついてこなくてもよいぞ。巻き込まれて殺しては目覚めが悪い」
麻倉と優実は戦慄する。いつもの爛々と輝く紅い瞳が、青く蒼く碧く見えたのだ。声もでず、ただ、その場にとどまることしかできなかった。
「さて、久しぶりにやろうかな」
貨物車の扉を開く。
4人。
こいつらは見張りかその程度。まぁ、そこそこの強さだろう。
銃を構える。
右手を前に。
呪文など必要ない。イメージ、雷の矢。
イメージと同時に発射。
構えられた銃から弾が発射。
列車が揺れる。
弾を粉砕し、敵に命中。全員失神。「手、抜いちゃったかな」そんなことを考える。
まだ、息がある。
ここで殺さなければ、いつか『私』が殺される。だからといって殺して言い訳じゃない。
ここは見逃してやろう。
「おい。貴様ら」
「 ! 」
「今度私にあったら、その命貰うからな」
次の車両へと続く扉を開く。
濃厚な魔力の痕跡。
まだいる。
一番遠い席のやつが立ち、炎の塊をはなつ。
左手を上げる。
炎は吸収される。その炎のなんと弱きこと。
「教えてやる。本当の炎、紅蓮をな」
「我が血の命にて、ここにその力を顕現せよ。炎の魔神フェニックス」
左手の前に炎の鳥が現れる。
そのまま敵に突っ込む。
暴炎と閃光が走る。
敵は倒れているが、周りには影響はない。
ふう。こんなところかの。まだやり足りない感じもするが。疲れたので荷物の箱の上に座った。いつの間にか、帽子は吹き飛んでいた。
目の前の扉が開いた。二人の軍人につきそわれた。青年のような、それでいて老練それた雰囲気の男だ。こいつの魔力は先頭ほうから感じたものと同じか。
「魔人か・・・」男がつぶやく。はっ、魔人か。言いえて妙だ。おもしろい。
「ほほぅ、おぬしが暴れていたものかぇ?」
男は黙ってうなずいた。なるほど。そのとき、ひかりが差し込んだ。男はわっちの髪や目の色をみた、どこか納得したような顔つきになった。ん、しかしさっきからむずがゆい魔力が渦巻いている。拘束結界?こんな面倒な術式せねばつかえんか。まったく。
『空様。お戻りになってください』
優実から、念話が送られてきた。男はなにを思っておるのかの…。少し気になるところだが、ここは優実にしたがってこの場を去ることにした。
こやつにはまた会えるだろう。そのときが楽しみだ。
「退屈だの」
わっちがそう言った時は、都から、もうそう遠くない場所だった。