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プロローグ
「おかあさま。おとうさま。樹里は今日も元気ですよ」
写真の中で笑っている両親に向かってあたくしははなしかける。あたくしは毎晩こうして両親へ一日の報告をする。写真の中の両親は笑顔でいっぱいだ。だけどその両親も戦禍の中で命を落とした。
(ここで改訂版)
新聞やラジオでは仮政府が今上様に戦争を仕掛けているって言ってる。あたくしにはそれがどれほど重要かわからない。今上様は今上様でいいのに。東宮がお隠れになって数ヶ月。喪も明けないうちに若宮様たちが争っている。仮政府を作ってあの方は(NP右腕、名前不詳)今上様に反乱を起こしている。戦禍はこのさびれた街にまで近づいてきている。帝都なのだから当たり前かもしれないけど、逆に今上様のお命を狙うなんてひどすぎる。それに若宮様たちが利用されているようでおかわいそう。あの方たちにはなんの罪もないのに(次男が主張していることはまだ知らない)お上が変わってもあたくしたちの今は変わらない。平和になってくれればいいけどそれ以外は誰が今上様になっても同じこと。今上様もお命が危ないのかしら?なんとなく背筋が凍った気持ちになった。お上が変わってもなんら変わりはないのにこの内紛には何かあるような気がしていた。
あたくしはただ見守るしかない。
(改訂版終わり)
憎むべき戦争。だけどあたくしは憎いとは思わなかった。人の心が戦争を生み終わりまた生み出していく。この繰り返しのループは消えることがない。あたくしにできることといえばただこうしてお父様とお母様に一日の報告をして平和を願うだけ。
ふと隣にある写真のフレームにも目が写った。そこには一年前まで家庭教師をしていた九夜さんが無表情で写っていた。写真を嫌っているのを無理やり撮ったのだ。せめて最後の記念にと。笑えば素敵なのに。
両親とすべてを失ったするどい悲しみはいつしか鈍痛へと変わってきている。あたくしの目から水滴がぽとり、と落ちた。
あわてて両目をこする。
「泣いてなんかいませんわ。ただ目から水が出てきただけです」
あたくしはそうつぶやくと早速就寝した。
何時ごろだろうか夜半にかけて赤い光が窓から差し込んでいた。
「樹里ちゃん。おきて。火事よ。戦争が来たの!!」
「そんな。こんなさびれた街にまで・・・」
「帝都ですからね。急いで避難しましょう」
あたくしとおばとおじは一緒になって家を出た。どこへいくあてもない。でも逃げないと死んでしまう。焦燥感だけがあたくしたちの心を占めていた。
「あ・・・」
あたくしはふと部屋においてきた写真を思い出した。
「樹里ちゃん!!」
立ち止まった瞬間おばさんの手からあたくしの手がするりと抜けた。
「おばさん! おじさん!」
人ごみに流されあたくしはおじさんともおばさんとも離れ離れになった。
「どうしましょう?」
のんびり構えている暇はない。あたくしは身を隠す場所を探し始めた。
そこへ一人の兵士が目の前に立ちふさがった。酒臭い。よっぱらっているようだ。この非常時になにをしているのか。ぎっとあたくしは兵士をにらんだ。
「ふん。小娘じゃないか。うろちょろしよって。お前など俺様が・・・」
反抗的な態度をとったのがわかったのか強く腕をつかまれた。急に恐怖がわきあがる。なにをされるのかわからない。酔っ払いの兵士はあたくしをどこかに連れて行こうとした。あたくしは立ち止まろうとしたが、兵士の腕の力にはかなわなかった。
怖い!
助けて!
お父様、お母様助けて!!
脳裏に今まで経験してきたことが走馬灯のようによみがえる。恐怖があたくしの心の中を支配した。
いや!
突然、あたくしの中で何かがスパークした。
「なにぃ。お前サイキック能力があるのか?」
よろよろと兵士が立ち上がりながら言う。サイキック能力? そんな珍しいものは持っていない。でも今何が起こったのかはわからなかった。ただ何かを起こしたのだと理解するにとどまった。
「おい。こんなお穣ちゃんにおいたはいけないな」
背の高い男の人が兵士のぐらをつかんで放り投げた。
どさっ。
兵士は気を失ったのかぴくりともしない。
「来な。嬢ちゃん」
「あたくしは嬢ちゃんではありませんわ。明樹里という名前があります!!」
嬢ちゃんと子ども扱いされたのが妙に腹が立った。あたくしはくるりと背を翻そうとした。そのとたん強く肩をつかまれた。
「だから。ここじゃ危ない。安全な場所へつれていってやるから心配するな」
大人の男の人の冷静な声があたくしの何かを安心させた。この人なら大丈夫。心の声が聞こえてきた。
あたくしはこの見知らぬ男性の後ろについて歩き始めた。